活動報告 第5回 トヨタ財団 情報交換会
「家族ケア:企業の受け入れ体制支援を中心に ~プロジェクト開始からの成果と今後の展望」

文:西村 多寿子

2025年11月20日、新宿野村ビル内のコンファレンスプラザにて、トヨタ財団主催「外国人材の受け入れと日本社会」の情報交換会(非公開)が開催されました。本会合は、助成対象プロジェクト間のネットワーク形成を目的とした少人数での対話の場で、研究・実践者同士が率直に意見を交わす貴重な機会でした。

本プロジェクト代表の西村は、「高度外国人材とその家族の安心・安全な暮らしを支えるために―医療福祉職の意識変容を促す記事発信と調査に基づく教材開発」(D24-MG-0012)の話題提供者として、「家族ケア:企業の受け入れ体制支援を中心に」というテーマで発表を行いました。

■ 本プロジェクトの強みはメンバーの多様性・共創性
我々のプロジェクトは2025年5月に始動し、約半年が経ちました。まだ初期段階ながら、医療・保健・行政・企業・地域支援者をつなぐための “課題の可視化” と、調査・教材開発の基盤づくりを進めてきました。当該ホームページ「多文化ケア.jp」の立ち上げも、その一環です。

多様な専門職が集い、現場と研究の双方から多文化ケアを検討できる体制にあることが、本プロジェクトの大きな強みです。医師・看護師・助産師・薬剤師のほか、行政経験者、子育て支援NPO、大学教員、日本語教師、多言語翻訳アプリ開発事業者など、多角的な視点を持つメンバーが揃っており、率直な意見交換と、EBPM(Evidence-Based Policy Making エビデンスに基づく政策立案)に欠かすことのできない、データに基づいた議論ができます。

■ 帯同家族の支援は「企業の人材投資」である
今回のテーマである企業視点からの家族ケアについては、調査・実践がこれから本格化する段階にあり、構成には悩みました。しかし、これまでの現場経験やメンバーとの意見交換から見えてきたのは、家族への支援が企業の人材戦略において極めて重要である一方で、家族生活を支える医療や地域インフラは脆弱化している、ということです。

発表では次のポイントを共有しました。

  • 高度外国人材の「家族ケア」は、受け入れ企業でも後回しになりがちである
  • 家族支援は、高度人材の採用競争力向上・パフォーマンス安定につながる
  • 家族の孤立や医療アクセスの困難が、離職・帰国の要因になりうる
  • 自治体窓口対応や医療機関などの地域インフラが十分に整っていない
  • 支援の担当範囲が曖昧で、“責任の空白”が生まれやすい

企業が外国人材を呼び寄せる以上、帯同家族が安心して暮らすための環境整備は“善意”ではなく“戦略的投資”であり、行政・医療・企業が協働して担うべき領域である、との考えを提起しました。

<発表で使用したスライド>

■ 事前説明による負担軽減という視点
また、西村の現場経験から、外国人家族が医療制度や生活情報を事前に理解しているだけで、行政・病院窓口の事務職や保健・看護職の負担は大きく軽減されることをお伝えしました。

来日直後の外国人が、制度を知らないまま自治体窓口や医療機関を訪れるケースは少なくありません。例えば、妊娠した女性が自治体窓口で母子健康手帳の交付を受ける場合、担当者は母子手帳の概要、妊婦健診の流れと健診券の使い方、国や自治体からの給付金、出産病院の確認(里帰り出産の有無)と出産後の手続きなどを一から説明する必要があります。

日本語でも理解が難しい制度や手続きが多い中、言語や医療制度の前提知識が異なる方に対しては、説明の段階ごとに確認や補足が必要になります。通訳者の調整や再説明が重なると時間・労務コストはさらに増加します。

一方、母語でもよいので基本的な制度や流れが事前に理解されていれば、面談や診療は格段にスムーズになります。窓口での確認事項は減り、書類不備も少なく、医療職や事務スタッフは本来業務に集中できます。

企業が外国人材を呼び寄せる以上、帯同家族の受け入れ準備や情報提供を誰が担うのかという構造的課題もあります。ここが曖昧なままでは “責任の空白”が生じやすくなります。

企業には、帯同家族の生活・医療を支援する“入り口づくり”を、自治体や医療機関には事務職を含めた担当者全体の外国人対応力の向上(基礎知識や“やさしい日本語”の活用など)を進めていただきたいです。また本プロジェクトでも、そこに寄与できる教材開発や、実証研究を踏まえた施策提案を進めていきたいと考えています。

■ さいごに:地域モデル構築と協働の広がりへ
当日は、もう一人の登壇者である坂本久海子さん(NPO法人 愛伝舎 理事長)の発表に続き、参加者全員でのディスカッションが行われました。参加された皆様との活発な意見交換やご提案のおかげで、外国人家族支援に伴う 時間コスト・労務コスト・リスクコスト といった“見えにくい負担”を改めて整理することができました。

会場にて、坂本久海子さん(左)と筆者

通訳を入れた診療の長時間化、保険制度の誤解や治療費未払いの懸念、異文化への配慮など、現場が抱える課題は複合的です。こうした課題を乗り越えるには、共通の“地図”を持つことで、医療・行政・企業が同じ方向に進める体制づくりが不可欠であるという点が、会場全体の共通認識として浮かび上がりました。

今回の情報交換会を企画してくださったトヨタ財団の皆様に感謝すると共に、今後は、議論で得られた視点を踏まえ、地域モデルの構築と教材開発を連動させて進めていきます。メンバーをリーダーにし、地域を拠点にした複数の小プロジェクトも始動しています。その進捗も「多文化ケア.jp」で随時紹介していく予定です。記事発信・調査・研修をうまく循環させて実践につなげ、施策提言へと発展させていきたいと思います。

最後は、発表と同じ言葉で締めくくりたいと思います。「がんばります!」

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