活動報告 第6回 オンライン勉強会
「地域実装に向けた実践と課題 ー 医療政策と外国人支援の取り組みから」

文:仲野 由紀子

2026年4月8日、オンラインにて、トヨタ財団2024年度特定課題「外国人の受け入れと日本社会」に採択されたプロジェクト「高度外国人材とその家族の安心・安全な暮らしを支えるためにー医療福祉職の意識変容を促す記事発信と調査に基づく教材開発」チームの勉強会を開催しました。

本プロジェクトは、代表・西村を中心に、多様な背景を持つ研究者や実践家が参画するチームで構成されており、2028年4月までの3年間の計画で取り組んでいます。

今回は、外部講師1名による講演とチームメンバー2名による活動報告が行われました。当日は、メンバーやプロジェクト関係者を含む計14名が参加しました。

概要
<講演>
「地域実装と政策形成をつなぐプロジェクト設計」
吉村健佑 
(千葉大学医学部附属病院 次世代医療構想センター長・特任教授)

<活動報告1>
「外国人集住地域周辺における薬局を拠点とした健康共生モデルの構築」
   報告者  鈴木高弘  (横浜薬科大学 薬学部)
   活動メンバー  吉田林・西村多寿子

<活動報告2>
「三河プロジェクトの経緯と実装課題 」
  報告者 山蔭仁嘉  (小児科医)
  活動メンバー  本多悦子・西村多寿子

<講演>
自治体と連携し、医療施策の適正化や持続可能性の向上に取り組む吉村氏より、政策形成と地域実装をつなぐ実践について講演が行われました。吉村氏は臨床現場を経て、厚生労働省の医系技官として制度設計や予算配分に携わった後、大学において現場実装をテーマに活動されています。政策立案の知見と現場経験を生かし、現場の声を政策へと反映させる取り組みについて紹介がありました。

講演では、まず日本の医療制度が抱える構造的課題が示されました。具体的には、①国民皆保険制度のもとで高度医療機関へのフリーアクセスが可能であり、医療の過剰提供が生じやすい構造、②医師の開業に地域・診療科の制限がないことによる偏在と特定診療科の負担集中、③医療機関の約8割が民間であり、人口減少に応じた病床削減や体制縮小が難しい点が挙げられました。

また、今後の医療提供体制について、「コスト」「アクセス」「医療の質」の3つの観点から整理がなされ、税収の大幅な増加が見込めない中で医療の質を維持するためには、アクセスの適正化が不可欠であると指摘しました。

(※発表者の当日資料より一部抜粋)

具体的事例として、市原市および船橋市における病院再編の取り組みが紹介されました。市原市では、医療需要の再分析を踏まえ、隣接市の医療機関も含めて医療提供体制を再評価し、それでも医療空白となる地域を補完する規模の医療機関を誘致する方針へと見直されました。このような規模の適正化は、市の財政負担および病院経営の双方の観点から、持続可能な医療体制の構築につながるものとして提案されました。その後、市原市では高度医療機関の誘致方針を見直し、持続可能な体制整備が進められました。

船橋市では、建設コストの高騰を受けて病床数や機能を見直し、現実的な規模での再整備を実現しました。いずれの事例においても、市議会や住民との対話と合意形成を重視したプロセスがとられ、大きな反対なく事業が進展した点が特徴として示されました。

また、主体的に取り組む市町村に対して国が医師派遣等の支援を行う仕組みも整備されつつあり、今後は地域主体で医療体制を検討する動きがさらに広がることが示唆されました。さらに、糖尿病患者が多い旭市における糖尿病の発症予防・重症化予防を目的としたプロジェクトでは、官民学の連携により成果を上げた事例が共有され、関係者間の信頼構築と目標共有の重要性が強調されました。

その後、民間が大多数を占める調剤薬局に求められる公益的役割、地域の産婦人科医の減少と寿命の延伸の中で女性の健康を支える助産師の役割拡大に向けた方略、病院経営の改善に必要な視点などについて、活発な議論が行われました。

また参加者からは、「外国人対応を前提としていない現行制度の中で、どのように実装を進めていくべきか」といった問いが挙げられました。

これに対し吉村氏は、制度の大きな改変を待つのではなく、自治体や現場レベルで実装可能な取り組みから着手し、その成果を政策へと接続していくことの重要性を指摘しました。あわせて、自治体間では他地域の取り組みを参照しながら施策が広がる傾向があることから、先行事例を積み重ね、横展開していく視点の重要性についても言及がありました。

さらに、部門横断的な連携の難しさについても議論が及び、自治体の意思決定構造や首長の関与が実装の成否に大きく影響する点が共有されました。

<活動報告1> 横浜プロジェクト:「外国人集住地域周辺における薬局を拠点とした健康共生モデルの構築」

鈴木高弘氏より、外国人集住地域における薬局を拠点とした健康共生モデルの構築について報告がありました。対象地域である横浜市のいちょう団地は、外国籍住民が約2割を占める大規模団地であり、高齢化と多文化共生の課題が重層的に存在しています。

(※発表者の当日資料より一部抜粋)

当該地域の薬局では、言語の壁、医療制度に対する理解不足、服薬やワクチンに関する知識の差異、さらには身体的制約による受診困難など、多様な課題に日常的に対応しています。こうした背景を踏まえ、薬局を起点とした支援体制の構築が、多文化共生型の地域医療モデルの実現に寄与する可能性が示されました。
薬局は医療機関と比較してアクセスしやすく、国によっては一次的な健康相談の場として機能していることから、軽症者への対応を担う役割の拡大も期待されています。今後は、地域における健康課題の把握、薬剤師側の課題整理、ならびに支援プログラムの開発を通じて、モデル構築を推進していく予定です。

参加者からは、帰国が現実的に困難な外国籍住民の高齢化に伴う課題について、地域としてどのように支えていくべきかという問いが示されました。また、多言語・多文化環境で育った子どもたちが地域社会において果たし得る役割についても議論がなされ、本地域が今後のモデル構築に向けた重要な検討対象となり得るとの見解が示されました。

<活動報告2> 「三河プロジェクトの経緯と実装課題」

山蔭仁嘉氏より、愛知県岡崎市および周辺自治体における外国人支援の取り組みと課題が報告されました。当該地域では、非営利組織や個人による支援が長年継続されている一方で、自治体の多文化共生活動との歩調は必ずしも一致していません。キーパーソンとなる人物の個人的な熱意や努力に依存する側面もみられ、持続可能性に課題がある状況が明らかになってきました。

地域で活動する支援者からは、「行政に働きかけても動かない」「理想論にとどまりがちである」といった声が聞かれ、制度と現場の間にあるギャップに加え、自治体とその周辺地域で活動する支援団体との連携の難しさが改めて認識されました。

本プロジェクトでは、自治体内の保健・医療関連部署における取り組みについて、情報収集と連携の可能性を模索しています。しかし現時点では直接の接点がないことから、岡崎市においては、国際交流・多文化共生に関わる部署へのヒアリングを行いました。

同部署では、中国、フィリピン、ブラジルなど様々な国にルーツを持つ、外国語に堪能な職員が、市役所を訪れる外国人に対し、各種手続きの支援を行っています。単なる通訳にとどまらず、来庁者の困り事や必要な手続きを対話の中からくみ取り、適切な部署へとつなぐ役割を担っており、個々の職員がいわば「ハブ」として機能している実態が明らかになりました。

さらに、この部署を起点として、保健・医療関連部署における実務的な外国人対応の向上と内部連携の促進を図るため、職員の理解促進に向けた研修(「市職員を対象とした講演とミニワークによる研修」)を提案していることが共有されました。

本研修では、本プロジェクトメンバーである山蔭、本多、西村がそれぞれの専門的立場から現場の課題と対応のポイントを共有し、外国につながる子どもや家庭への関わり方について具体的に整理します。また、ミニワークでは、窓口対応や健診案内における言葉を「やさしい日本語」で伝える実践を通じて、現場で活用できるコミュニケーション手法の習得を目指します。

おわりに

活動報告後の議論では、外国人支援の実装は首長の意思に大きく左右されることが指摘されました。また、医療・介護制度が日本人を前提に設計されているため、外国人対応に伴う追加コストは公的保険では扱いにくいという構造的な制約に関する指摘もありました。

こうした点を踏まえ、対応策としては、医療提供体制全体の維持という観点から財源確保の論理を構築すること、あるいは福祉政策として公費で位置づけることが考えられ、制度の前提を踏まえたロジックの整理が求められるとの意見が示されました。

盛況のうちに終了した本勉強会は、人口減少下における持続可能な医療体制の構築と、多文化共生社会の実現に向けて、政策・実践・地域の視点を横断的に捉える貴重な機会となりました。また、専門職や地域住民を含む多様な主体の協働の重要性について、理解を深める場となりました。

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