活動報告 第7回
日本小児看護学会 第36回学術集会 テーマセッション「外国につながる子どもと家族への対応 ―伝わる説明と対話の工夫―」

文:西村 多寿子

2026年7月5日、静岡で開催された日本小児看護学会第36回学術集会において、国際交流委員会企画のテーマセッションに話題提供者として登壇し、講義と演習を行いました。


会場には80名余の方がお集まりくださいました。小児病棟で働く看護師、看護系大学の教員、医療的ケア児の地域支援に携わる看護職など、子どもと家族を支えるさまざまな立場の皆さまと、外国につながる子どもと家族への対応について考える機会となりました。

妊娠・出産から乳幼児期へ――外国人家族特有の課題

講義の前半では、自治体における妊娠・出産から子育てまでの支援の流れをたどりました。

妊娠が分かると、妊婦は自治体の窓口で母子健康手帳と健診券などを受け取り、妊婦健診、出産へと進みます。出産後には、出生届、各種手当の申請、新生児訪問、乳幼児健診、予防接種など、さまざまな制度や支援につながっていきます。

こうした仕組みは日本人家庭にも共通しますが、日本国籍を持たない子どもには、原則として出生届に加え、在留資格取得の手続きが必要になります。その申請には期限があり、手続きが遅れると、その後の生活や各種行政サービスの利用にも影響する可能性があります。

その具体的な事例として、「多文化ケア.jp」の「現場の声」リレーエッセイ第3回「“60日以内” 在留資格と赤ちゃんの未来」を紹介しました。

この記事では、病院のソーシャルワーカーが、入院中のフィリピン人母子の退院後の生活を心配し、住民登録のある自治体のこども支援部署に相談したことをきっかけに、自治体の担当者が家庭訪問を行った経験が綴られています。

通常の新生児訪問では、赤ちゃんの健康状態や授乳、母親の心身の状態などを確認し、今後の予防接種や子育てについて助言します。このケースでは、病院での母子の様子や家庭環境について事前に情報提供を受けていましたが、実際に自宅を訪ねると、事前には把握されていなかった生活上の課題がいくつも見えてきました。

その一つが、赤ちゃんの在留資格に関する手続きです。訪問時点でも申請が済んでおらず、すでに生後50日を過ぎていることが分かりました。

外国人家庭の場合には、通常の母子保健上の確認に加えて、出生後の行政手続きや在留資格、住まいや経済状況などが、赤ちゃんと家族の暮らしの安定に直結していることがあります。

この事例を通して、小児看護や母子保健に関わる専門職にも、外国人家族が日本で生活するために必要な制度について基本的な知識を持ち、必要に応じて適切な窓口へつなぐ視点が求められることをお伝えしました。

「読める」説明から「行動できる」説明へ

60分のセッションでは、このほか、「案内文の日本語にルビを振るだけでは伝わらない」をテーマに、外国人保護者向けの情報設計について考えました。

自治体などが作成する案内文には、必要な情報が詳しく書かれています。しかし、日本語を母語としない保護者にとっては情報量が多く、どこを見ればよいのか、結局何をすればよいのかが分かりにくいことがあります。漢字にルビを振れば読めるようにはなりますが、「受診対象時期」「償還払い」といった制度上の言葉の意味や、行動の順番まで理解できるとは限りません。

そこで、まずは必要な情報に絞り、「いつ」「どこで」「だれが」「何を持っていくか」などを明確に示すことが重要です。やさしい日本語で作成した資料は、詳しい原本の代わりではなく、それを理解し、必要な行動をとるための入口や説明の補助資料として活用できます。

また、翻訳ツールを使う際にも、日本語で省略されがちな主語を明確にする必要があります。たとえば「受けてください」だけでは、翻訳ツールが文脈から主語を補って訳すため、受ける人が保護者なのか子どもなのか、正しく伝わらない可能性があります。翻訳やルビだけに頼らず、相手の表情や反応を見ながら理解を確かめ、必要に応じて説明を組み立て直すことが、次の行動につながります。

後半には、「やさしい日本語3文トレーニング」アプリを使った演習を行いました。医療現場でよく使う言葉を、主語を入れた短い3文に言い換え、アプリに搭載されたAIから即時に講評を受ける内容でした。参加者の皆さまは、ご自身のスマートフォンを使い、ふだん患者さんへの説明で何気なく使っている医療用語や言い回しを、外国人の子どもや家族にも伝わる言葉へと言い換えていただきました。

コミュニケーション支援を医療安全の視点から

テーマセッションの結びには、次の3点をお伝えしました。

・外国につながる子どもと家族への対応は、医療安全につながるコミュニケーション支援である
・翻訳やルビだけでなく、次の行動が見える説明が必要である
・やさしい日本語は特別な配慮ではなく、日常業務で使える実践的なスキルである

終了後には、「現場ですぐに使えそう」「学生教育にも取り入れたい」といった声をいただきました。外国人対応を専門にしていなくても、日常業務の中で外国人の子どもや家族と接し、説明の難しさや戸惑いを感じている看護職は少なくないことが伺われました。

今回の発表を通して、多文化ケアの視点を、看護や医療安全、子どもと家族を支える日々の実践の中に位置づけて伝えていくことの意義を、改めて感じました。今後も、ホームページでの発信や、学生教育・現任教育の機会を大切にし、現場で得られた気づきが次の実践へとつながる取り組みを進めていきたいと思います。

このような機会を企画してくださった日本小児看護学会国際交流委員会の先生方、ご参加くださった皆さまに、心より感謝申し上げます。

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