インタビュー 第3回

鳥海 不二夫 氏 東京大学 大学院工学系研究科 教授
「どちらの側に立っても偏る世界
-SNS時代の外国人イメージと『情報的健康』を考える」

― 鳥海先生はSNS分析に関する論考やYahoo!ニュースへの寄稿も多くされています。 SNSにはどんな特徴があると思われますか?

鳥海: SNSとかソーシャルメディアって、どうしても分断を生みやすいんですよね。ここ1年で目立つのはクルド人への排斥ですし、昔から韓国人や中国人に対する偏見も多かったと思います。

実際には日常生活でクルド人について語り合うことなんてほとんどないのに、ネット上では“祭り”のように人が集まって騒ぎ、また去っていく。関係のない人までが飛び込み、“正義の心”で参加してしまう。それが結果として排斥を強めてしまうことがあります。

ネットでは、自分と同じ価値観を持つ人を簡単に見つけられるんです。0.1%しか支持されない考えでも、全国規模で見れば1万人くらいは集まってコミュニティができてしまう。クルド人にとって排斥コミュニティは困った存在だけど、逆に排斥する人にとっては、クルド人のコミュニティそのものが困った存在に見えていると思います。

しかも、アクセス数が増えることで稼げるのはどちら側かというと、排斥側の言説なんですよ。インフルエンサーも儲かるからそっちを発信する。人間の認知バイアスと経済構造が組み合わさって、攻撃的な言葉が拡散されやすい。もしみんなにお金の余裕があれば『どうぞどうぞ、困っている人は支援します』という気持ちになれるかもしれませんが、余裕がない状況では嫌悪が出てきやすくなります。

― 先生は「エコーチェンバー」や「フィルターバブル」という言葉をよく使われています。ただ、読者の中には聞き慣れない方も多いと思います。まずは「エコーチェンバー」とは何か、教えていただけますか?

鳥海: 「エコーチェンバー」というのは、自分と同じ考えの人だけが集まる空間のことです。そこで例えば、『外国人は悪い』という合意ができてしまうと、反対の意見は届かない。周りの人が『そうだそうだ』と同調してくれるから、自分の考えが正しいと思えてしまうんです。ごく一部の声にすぎなくても、自分の目に入る範囲がすべてになってしまう。そうやって見方が固定化されていきます。

しかも、そういう情報ばかりを受け取るようになると認知バイアスが働きます。たとえば『攻撃されているのは悪いからだ』と考える“公正世界仮説”のように、被害を受けている側に“悪い理由”を求めてしまう。そういう心理があるから、『外国人は悪い』という前提ができると、『実はいい人もいる』という情報は入りづらくなります。

一方、「フィルターバブル」というのはAIによる情報の選別で、自分が見たい動画や記事ばかりを推薦する仕組みです。例えば、YouTubeで外国人排斥系の動画を見始めると、同じようなものばかりが出てきます。その一方で、『外国人が差別されて困っている』系の情報は、“どうせ見ないだろう”と判断されて提示されなくなります。

逆にその『困っている』系の動画を好んで見始めた人は、その視点がどんどん増幅される。結果として、どちらの側に立っても偏った世界に閉じ込められてしまい、相手の立場や現実の多様さに触れにくくなります。

つまり、人間が自ら入り込むのがエコーチェンバー、AIがフィルタリングしてしまうのがフィルターバブル。似ているけれど違います。

― そうした偏った環境の中では、どんな情報が広がりやすいのでしょうか? 偽情報が拡散しやすいということはありますか?

鳥海: 偽情報というのは必ずしも明確な嘘とは限らないんです。例えば『クルド人がゴミの日を守らなかった』。これは事実かもしれない。ただ、もっとやっかいなのは“過去に一度あった出来事”が繰り返し発信されるケースです。

例えば1年前にそういうことをした人がいた。その事実を、毎週のようにSNSに書き込む人がいると、読む側は『今も毎週そうなんだ』と受け取ってしまう。嘘は書いていなくても、現在の状況を誤解させることになります。

人は自分に都合の悪い情報を偽情報だと決めつけがちです。ファクトチェックを見ようとしないし、見ても信じないことも多い。だから単純に偽情報を消せばいいという話ではありません。

― 偽情報をただ消すだけでは解決にならない…。では、私たちはどうやって情報と付き合えばいいのでしょうか。先生が提唱されている「情報的健康」という視点について教えてください。

鳥海: 人間は欲求のままに食べると、脂質やカロリーの高いものばかりを選んでしまう。これは人類の進化の大部分で高いカロリーを得るのが難しかったために、そうしたものを好むよう最適化された結果です。でも現代でファストフードばかり食べていたら体を壊してしまう。情報も同じで、欲望や快楽に任せて受け取っていると偏りが強くなってしまいます。

例えば、牛丼チェーンで『味噌汁や小鉢もつけようかな』と考えるのは、栄養にはバランスが必要だと知っているからです。本能的に反応する“システム1”だけでなく、知識をもとに考える“システム2”を働かせているわけですね。情報空間でも同じで、バランスを取るための基礎知識が必要です。

今の私たちは栄養やカロリーの知識があるから、『毎日マックはやめよう』『ポテチを食べ過ぎないようにしよう』と考えることができる。それと同じように、エコーチェンバーやフィルターバブルといった基礎用語を知ってほしい。SNSを見続けると推薦の仕組みで自分の世界がどんどん狭まっていることに、まず気づいてほしいです。

― なるほど、やはり”知ること”が出発点なんですね。

鳥海: 自分の頭で全部考えられる、なんてことはありえません。無理なんです。だからこそ、情報空間の基礎知識を得ることが出発点になる。その上で初めて『どうすればいいのか』が考えられる。

逆に言えば、そこを抜きにして答えだけ求めるのは、自分の健康を他人まかせにして、たまたま良い人に当たればいいけれど、変な人に当たったら不当にお金のかかる代替医療を延々続けてしまうのと似たところがあります。

昔はテレビや新聞しかなく、それを信じるしかありませんでした。でもそこにはある程度の規制や信頼性の担保があった。今のネットのインフルエンサーにはそれがまったくない。だからこそ「情報的健康」の観点からは、自分自身で知識を持ち、批判的に受け止める姿勢が欠かせないのです。

鳥海 不二夫 (とりうみ ふじお)
東京大学 大学院工学系研究科 教授。2004年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了(博士(工学))、同年名古屋大学情報科学研究科助手、2012年東京大学大学院工学系研究科准教授、2021年同教授。研究テーマは計算社会科学、人工知能(AI)技術の社会応用。著書に『デジタル空間とどう向き合うか 情報的健康の実現をめざして』(日経プレミアシリーズ)、『強いAI・弱いAI 研究者に聞く人工知能の実像』(丸善出版)、編著『計算社会科学入門』(丸善出版)など。

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