堀 永乃 氏
一般社団法人 グローバル人財サポート浜松 代表理事
「働きやすい職場を国内外にアピール ― 外国人材の受け入れに求められる「働く」と「暮らす」の再設計 ―」
外国人材の受け入れは、いまや「採用」や「人手不足対策」だけでは語れなくなってきました。定住が進み、家族帯同も増えるなかで、現場では、医療・行政・教育・地域生活の“つながり直し”が求められています。
今回は、浜松で長年、外国人と地域をつなぐ現場に立ち続けてきた堀永乃さんにお話を伺います。聞き手は、本プロジェクト・リーダーの西村多寿子と、同メンバーで小児科専門医の山蔭仁嘉です。
―堀さんは、浜松国際交流協会で働かれながら、現在の一般社団法人を立ち上げたそうですね。
堀: はい。私が浜松国際交流協会の職員だった2008年頃、リーマンショックが起き、地域の製造業で働いていた日系ブラジル人を中心にした派遣切りが相次ぎました。不安定な雇用条件にあった彼らは、仕事だけでなく住まいも失い、生活が立ち行かなくなるなど、本当に厳しい状況でした。
そのなかで、母国では看護師や助産師として働いていた方がいると知り、介護分野という新たな分野で彼ら自身の力を発揮してもらえないかと考えたのが出発点です。介護のための日本語教室などを経て、資格取得が必要だということで、在職中に同志たちと法人を立ち上げ、資格取得を支援する研修を開講しました。教材を外国人向けにわかりやすくやさしい日本語やイラストでリライトするなどして、彼らにとって受講しやすい講座づくりに工夫を重ねました。こうした取り組みが広がるなかで、継続的な支援体制が必要となり、2012年に協会を退職し、代表理事に就任しました。
― いま進めている「外国人雇用適正化プロジェクト」について教えてください。
堀: このプロジェクトは、外国人材を受け入れる企業側の環境を「見える化」し、より良い雇用と就労・定着につなげていこう、という取り組みです。これまで外国人支援というと、日本語教育や生活相談など、どちらかといえば外国人側への支援に焦点が当たりがちでした。しかし、実際には受け入れる企業の体制や理解の度合いによって、働きやすさや生活の安定が大きく左右されます。そこで、企業自身が自社の受け入れ環境をセルフチェックし、継続的な改善に取り組める仕組みを整えました。
具体的には、労働条件や安全管理、相談体制、日本語学習の機会、生活支援への配慮など、複数の観点から評価項目を設定し、企業による自己評価と外部の専門家による評価、認定委員会による評価を組み合わせた三段階の仕組みとしています。ILO(国際労働機関)の方にもご参画いただき、その基本的な考え方も参照しながら、実際に外国人を受け入れている業界(製造業・介護福祉業・ビルメンテナンス業・小売業)各社の担当者と共に、国際的にも通用する基準を意識して設計しました。現在は東海地域を中心に約20社がトライアルに参加しており、多様な業種で検証を進めています。
このプロジェクトの目的は、企業を“選別”することではありません。むしろ、自分たちの職場の在り方を振り返り、「何を整えれば外国人材が安心して働き続けられるか」を当事者同士が一緒に考えることにあります。
外国人雇用は、単なる人手不足対策ではなく、同じ従業員として誰もが活躍できる取り組みであるべきです。そのうえで、外国人従業員も地域社会の一員として同じ地域に共に暮らしていく関係づくりにつながると考えています。職場環境が整えば、離職の防止や人材の成長にもつながり、結果として企業にとっても持続可能な経営基盤になります。
今後は、この評価の仕組みを普及させるとともに、企業・行政・地域団体が連携しながら、働くことと暮らすことを切り離さない支援モデルへ発展させていきたいと考えています。外国人材が安心して働き、家族とともに地域で生活できることが、日本社会全体の力を高めることにつながると考えています。
― 国際的な労働・人権基準を背景に設計された点は、画期的だと感じました。企業の中で、どのような立場の方が参加されることが多いですか?
堀: 企業の窓口になる部署は、会社ごとに異なります。人事部が担う場合もあれば、企画やコーポレート部門が担当することもあり、どの部署が中心になるかは各社の考え方次第です。外国人雇用を「採用」と捉えるか、「新たな職場環境づくり」と捉えるかによって、関わる部署も変わってきます。
また、実際に外国人材と日々接している現場の管理職が参加することも大切です。制度だけ整えても、現場での理解や運用が伴わなければ定着にはつながりません。そこで、このプロジェクトでは、特定の部署だけで完結させるのではなく、複数の立場の方に関わっていただくことを意識しています。企業の中で横断的な対話が生まれること自体が、大きな成果になると考えています。
― 外国人支援は、特定の担当者の熱意や経験に依存してしまう、いわゆる“キーマン依存”に陥りやすいとも言われます。持続可能な体制づくりについて、どのようにお考えですか。
堀: おっしゃる通りで、現状はどうしても個人の力量に支えられている部分が大きいと感じています。相談窓口の継続性や地域差、企業規模による対応力の違いなども含め、今後は属人的な支援から、無理なく続けられる仕組みへと転換していく必要があります。
現場では、「誰が司令塔となり、誰が相談を受け、誰が実務を担うのか」といった役割の所在が見えにくいこと自体が課題です。さらに、企業ごとに担当部署も人事、企画、総務などさまざまで、関わり方や進め方も一様ではありません。だからこそ、個別の対応に頼るのではなく、誰がどの役割を担うかを明確にし、組織として課題を共有していくことが重要だと考えています。
一方で、実際に組織を動かすには、現場からの積み上げだけでなく、経営層への働きかけも欠かせません。トップが自分事として発信できるような形で合意形成を進めていく、そうしたプロセス設計も必要です。制度化を進めることと同時に、現場と組織の両面から支える構造づくりが求められていると思います。
― 私たちは医療や福祉分野の専門職の多いプロジェクトで、医療や妊娠・出産・子育てに関わる場面でのコミュニケーションの難しさを感じています。堀さんのご経験の中で、お感じになっている課題があれば教えてください。
堀: 医療の場面では、単に言葉が通じないというより、日本の医療の仕組みそのものが十分に理解されていないために生じる戸惑いを、多く見てきました。たとえば、体調不良で「クリニックに行けばよい」と考えて受診したものの、診療科の違いが分からず、目的に合わない医療機関を訪れてしまうといったケースがありました。日本では当然とされている受診の流れや医療機関の役割分担が、外国人には見えにくく、結果として受診の遅れや不安につながることがあると思います。
山蔭: 医療通訳についても、課題が多いと感じています。実際の現場では、医療に特化したトレーニングを受けた通訳ではなく、一般の通訳の方が対応していることが少なくありません。そのため、医学的な説明の細かなニュアンスまで十分に伝わっているのか、医療者側も手探りになる場面があります。これは、個々の通訳者の努力や現場の工夫だけで解決できるものではなく、医療制度や支援体制のあり方そのものに関わる課題でもあります。

言葉の問題にとどまらず、家族関係や文化・価値観まで含めて対応していく必要がある点に、医療現場特有の難しさがあります。
例えば、親御さんが病気で受診された際に、お子さんが通訳の役割を担っているようなケースに出会うこともあります。本来であれば大人同士で行うべき説明を子どもが介在して伝えることになり、内容の正確さや心理的な負担の面でも気になるところです。
さらに、宗教的背景によって医療現場で求められる配慮が大きく異なることもあります。新生児医療の現場では、宗教的な儀礼を希望される場面があります。そうした思いを尊重しながらも、子どもの命を守る医療機器の安全管理との両立をどう図るべきか、非常に慎重な調整が必要になることもあります。
― 日本語教育についても、従来の語学学習だけでは現場の課題に十分対応できない場面があるように感じます。今後、どのような形が求められるのでしょうか。

堀: 現在、私たちが関わっている日本語教育は、企業からの依頼による「企業内日本語教育」が中心です。外国人材が職場で必要とするコミュニケーションや、介護分野であれば初任者研修の受講や資格試験に対応するための学習支援など、就労に直結した内容を重視しています。
一方で、地域で行われている日本語教室の多くはボランティアに支えられており、文法をしっかり教えたい方と、生活に役立つ会話を重視したい方との間で、目指す方向が分かれているのが実情です。どちらが正しいということではありませんが、実際に日本で暮らし、働いていくためには、その両方をどう結びつけるかが重要になります。
企業の現場で求められる日本語と、地域での生活を支える日本語は本来連続しているはずですが、管轄する行政によって別々に扱われがちです。こうした経験から日本語を語学として教えるだけでは十分ではないと感じています。
また、特にアジア圏の学習者の場合、オンライン学習だけでは定着しにくいこともあり、対面でのやり取りのなかで理解が進むといった課題も見えてきました。今後は、就労支援の一部としての日本語教育と、地域での生活支援としての日本語教育を切り離すのではなく、相互につながる形で設計し直していくことが求められていると感じています。
一般社団法人グローバル人財サポート浜松「外国人雇用適正化プロジェクト」の詳細はこちら
https://www.globaljinzai.or.jp/foreignworker
