「現場の声」リレーエッセイのはじめに
制度、言葉、文化の違い――。
外国人住民を支える現場では、日々、さまざまな「小さなできごと」が積み重ねられています。
この「現場の声」は、医療・福祉・行政の現場で実際に外国人支援に関わる方々の体験を、短いエッセイとしてリレー形式でお届けするコーナーです。現場だからこそ見える悩みや工夫、支援の中で生まれる小さな希望を共有することで、読者の皆さんと共に考え、支援のヒントを得たり共感の輪を広げていきたいと願っています。
最初にご紹介するのは、妊娠や子育てをめぐる制度との出会いに関する2つのエピソードです。 「母子手帳(母子健康手帳)」という日本独自の仕組みをめぐって、外国人当事者と支援者のあいだにどんな対話があったのか。ぜひお読みください。
#1 「母子手帳ってなに?」
大学院に通う東南アジア出身の女性からの相談に対応したことがあります。妊娠したようなので産科クリニックに同行してほしいとのことでした。簡単な日本語はわかりますが、専門用語の理解には不安があるとのことだったので、医師や看護師の説明を補いました。
当初、日本の母子手帳についてほとんど知識がなかったようですが、後日、役所に取りに行くことになりました。帰国して出産するつもりですが、妊婦健診などをこちらで定期的に受けなければならないことを知り、「赤ちゃんのために頑張る」と前向きでした。しかし大学は男性が多く、周囲に相談できる人もいないようです。

異国での生活は不安でしょうし、制度の“入り口”で立ち止まる人は少なくありません。とくに妊娠・出産に関わることは、本人の理解と支援が必要だと思いました。
(神奈川県 医療通訳 アグネータ)
#2 「母国の手帳と日本の制度の間で」
ネパールから1歳の子を連れて来日した母親と一緒に役所の保健福祉課を訪れました。出産は母国だったため、窓口では「母子手帳は不要」と言われましたが、本人が持参していたネパールの母子手帳を示し、「日本の医療機関で見せるために日本語のものが必要」と伝えたところ、交付が認められました。

日本脳炎など、母国にない予防接種の説明には翻訳アプリを使って対応し、保健師からは日本語とローマ字で記載されたメモを渡されました。後日、本人から「1人で健診に行けた」との報告があり、言葉の壁を越えて支援できた喜びがありました。
制度の柔軟な運用と、多言語情報の工夫が、外国人保護者の安心につながることを実感した経験でした。
(兵庫県 多文化共生マネージャー まろん)
今回ご紹介した2本のエッセイを皮切りに、今後は1本ずつ、継続的に発信していく予定です。
なお、本コーナーでは個人の体験を尊重し、支援を受ける方々のプライバシーに配慮するため、執筆者の情報は「都道府県」「職種」「ハンドルネーム」のみを掲載します。また、支援場面によっては、医療福祉職などの専門資格を有していても、業務としてではなく、友人や知人として関わったケースも含まれます。
今後は、現場での気づきや実践を共有してくださる方々からの投稿を募集していく方向で検討しています。多文化ケアに関心を寄せる皆様の声をお待ちしております。
