#7 「NICUで出会った家族 ― “当たり前” が起こしたトラブル」

NICU(新生児集中治療室)で、イスラム系のご両親と赤ちゃんに関わったことがあります。赤ちゃんはとても小さく生まれ、人工呼吸器や点滴など多くの治療を受けていました。

お父さんは大学の先生で英語が堪能でしたが、仕事のため来院できるのは日に一度程度でした。お母さんとは言語コミュニケーションが難しく、日中は一人で赤ちゃんのそばで過ごしておられました。夜にお父さんが来院すると、医療者がその日の治療内容や赤ちゃんの様子を説明し、おふたりで共有されていました。

ある日のケアで、低出生体重児用のミルクを母乳に足したため、その説明をお父さんにしたとたん、ご両親の顔がこわばりました。ミルクに豚由来の成分が含まれていないかと尋ねられました。すぐにメーカーに確認した結果、豚由来成分が含まれていることが分かり、その事実を伝えて謝罪しました。

その後、医師と相談し、ご両親がそろって十分な説明を受けられるタイミングで面談をし、カンガルーケアを行うことになりました。最初は不安そうでしたが、看護師らの手順を見て安心された様子で、お母さんと赤ちゃんの距離が少しずつ縮まっていきました。
ご両親の落胆は大きく、それまで赤ちゃんに触れていたお母さんが、保育器の外から見つめるだけの日が続きました。それでも毎日面会に来てくださっていたことが、私たち医療者にとって救いでした。

当時のことを振り返ると、多言語対応や「やさしい日本語」といった考え方はなく、文化や宗教への配慮が十分とは言えませんでした。特にミルクの件は、医療者側の知識不足だったと反省しています。この経験は、文化や価値観への配慮や想像力がケアに不可欠であることを教えてくれました。

(愛知県 看護師・外国人支援団体 四つ葉のクローバー)

※補足
カンガルーケアとは、抱っこの仕方の一つです。親にビーチチェアのようなリクライニングシートに寝てもらい、親の胸をはだけて、その上に裸の赤ちゃんをうつぶせで乗せ、掛物をします。その姿がカンガルーのポケットのような様子からカンガルーケアと呼ばれています。親も赤ちゃんも、皮膚同士が触れ合うことで、安心感を得られ、絆が深まります。特に低出生体重児などの赤ちゃんには、体温調節や呼吸・循環の安定化、免疫力の向上、精神的な発達など、多くの利点があります。さらにお母さんの母乳の出が良くなることも知られています。

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